本記事は「北鎌倉湧水ネットワーク様」から許可を得て転載させて頂いたものです。
2017年1月、京浜急行の追浜駅にほど近い商店街に木の年輪を感じさせる和風建築の粋なお店が忽然と登場した。まるで古都の一角に迷い込んだような錯覚を覚える。お店の名は「つくる人の心と、酒と食を囲む人をつなげる場所」をコンセプトに掲げる「地酒・伝統食品 掛田商店」。設計者は北鎌倉湧水ネットワークの友好団体である「NPO法人游風」の理事をしている一級建築士の波多周さん(波多周建築設計主宰)。
波多さんから2017年2月23日、「2月28日に緑のダム北鎌倉の兼松まゆみさんが私の設計した酒屋さんの見学にいらっしゃいます。 兼松さんからお誘いがあると思いますが野口さんもよろしければお越しください」とお誘いのメールが届いた。游風での活動の様子は、これまで何回も目にしていたが、本業の活躍については、まったく知らずにいた。良質の木材がふんだんに使われた掛田商店の店内に足を踏み入れると、まるで手入れの良く行き届いた美しい森で感じるのと同じような心地よさを味わうことができた。
「波多さんやりますね。素晴らしい」。思わず心の中でつぶやいた。一級建築士と名乗る以上、こうした質のいい作品を残したいはず。丁度居合わせた掛田商店社長の掛田薫さんが「波多さんならわたしがイメージしたお店を設計してくれると思って依頼しましたが、想像を遥かに超える素晴らしいお店を作っていただきました。一歩入るだけで気持ちが上がります。お客も増えています。」と話してくれた。そこで、波多さんに今回の設計に関する質問をしてみた。
―今回の設計で何を表現したかったのですか。
(波多) 掛田商店の扱うお酒の特徴、お店の特徴を建築で表現したいのと同時に国産材を使ってつくる木の建築の良さを皆さんに知っていただきたい、と思いました。
―そのためにどのような工夫をしたのですか。
(波多) 掛田商店の扱う妥協のないお酒たちのように奈良の吉野杉、天然乾燥材を使いダイナミックに構造を見せることで力強くでも居心地の良い空間をつくりました。
―どういう点で苦労しましたか。
(波多) 既存の建物の図面が無く基礎の解体がどうなるのか?合わせて地盤も悪かったので、地盤補強から行うことで費用と工期も延びてしまったことです。
―設計を終えての感想は。
(波多) 今回設計監理を私に任せていただいたことに感謝しています。そして、工事に携わった職人さんたちが持てる力を最大限に出し合って造り上げてくれたことに感謝です。
―掛田商店さんとの関わりを教えてください。
(波多) 社長の掛田薫さんとは、数年前から鎌倉のカジュ・アートスペースでお会いしていました。お店の建替えを考えているということで私がお声掛けして、私の事務所兼自宅に来ていただいてお話がスタートしました。2年半前のことです。
―これから目指すもの、大切にしていくものは何ですか。
(波多) 小さくていいもの、両手ですくい上げるように大切に大切に一つひとつつくり上げていきたい、と考えています。完成、引き渡しが頂点ではなく、住みながら使い込まれてその家族、お店の個性になっていく建築をつくっていきたい、と思います。