(編集部) 建築家とはどのように知り会ったのか教えて下さい。
(建て主) 2009年に旧東急桜木町駅舎を改装したアートスポット「創造空間9001」(横浜市中区桜木町1)で行われていたイベント「建築家ト家ヲ創ル」 (https://www.hamakei.com/headline/4159/)で話をしたのがきっかけです。当時は具体的に自分が建築家に建築をお願いすることになるとは考えていませんでした。ただ当時、建築家波多さん(以下、波多さん)が話していた「家は買うものではなく、創るもの。」と言うセリフはとても印象的でした。
(建て主) 私の実家は、父親が建築条件付きの土地を購入したのがきっかけで建てられた典型的なハウスメーカー製でした。両親に付き添う形で打ち合わせに参加したところ、建築免許取り立ての方が設計を担当すると聞いた上に、まだ話もしていないのに図面も出来ていた点に子供心に違和感があったのを今でもよく覚えています。
(編集部) 実際に建築をお願いするまでに期間は必要だったのですよね?
(建て主) はじめは自分が建築家にお願いするのはとても無理と考えていました。ただ、変な物件を知らずに購入したら嫌なので、気になるマンションや中古の物件が出るたびに、波多さんに物件を見て頂くお仕事をお願いする機会を何度か作りました。その機会のたびに波多さんのお話をお伺いし、だんだんと建築家に家を建ててもらうことが身近に思えるようになってきました。
(編集部) 実際どんな形で開始しましたか?
(建て主) 建築家に家を設計して頂いて建てるには、建築条件の無い土地を確保することが先決になってきます。ただ、私は本業で手一杯でしたし、週末に土地探しをする時間的な余裕はありませんでした。そこで、波多さんに土地探しも協力頂いて、気になる物件が出るたびに連絡を頂いていました。実際にこの土地探しがネックになって多くの人が建て売りを買うみたいですけど、波多さんの場合、建て主の考えや趣味嗜好や家族構成など、様々に考慮しながら候補となる土地を不動産屋さんと見つけてくれるので助かりました。土地の良いところも悪いところも、包み隠さず教えてくれるのも安心感につながりました。
(編集部) 実際にお願いして良かった印象的な出来事と内容を教えて下さい。
(建て主) 皆さんにお伝えしたいのですけど、建築家と家を創るのは、注文住宅とは違うという事なのです。一般に言われる注文住宅の場合、建て主が好きに選んでその通りになってしまいます。でもそれって、素人に全部選ばせている事と同じなので、とても危ないものと考えていました。私は当初、「銭湯みたいな大きなタイル張りのお風呂が欲しい」とか「グランドピアノを大きな防音室に置きたい」とか、家族の生活をイメージせずに考えた内容を思いつくままにどんどん伝えていました。今考えると、その通りになっていたら恐ろしい結果になっていたと思います。波多さんは、生活のこと、地域のこと、家族のこと、将来のこと、色んな事を俯瞰して見てくれました。「一日のうちでお風呂に入っている時間ってどのくらいですか?」とか「そんな大きなお風呂を作ったら光熱費が大変ですよ」とか「一日家に居ないお父さんのグランドピアノの部屋が一番大きいって家族から恨まれそう(笑)」とか、真っ当な意見や考えを返してくれました。お願いする側って家を建てるプロではないので、こういったやりとりをできるのが結果的にとても良かったです。私の言う通りになっていたらめちゃくちゃになるところでした。(笑)
(編集部) 実際に住んでみていかがですか
(建て主) 「とにかく気持ちが良い」のひとことですね。私の場合、土地はそれほど広くないのですが、波多さんの設計によってゆったりとした空間を実現してくれました。このおかげでいつでもゆったり過ごすことができています。波多さんの建築物はどれも端正な仕上がりなのですが、思考が研ぎ澄まされるような気持ちになれるのも個人的に嬉しいポイントです。
大黒柱は一本の木が使われているのですが、和歌山県の杉にしようと決めるのに実際の山を見たりしているのも非常に興味深いです。この大黒柱に支えられた大きく綺麗な梁と柔らかな香りを感じると、本当に気持ちが良いです。
また、面白いことに長年住んでみないと気付かないような工夫がしてあったりします。例えば、風呂場に窓をつけて頂いているのですが、朝の時間帯に木漏れ日が入るように設計されているのです。これって周辺の土地や環境の移り変わりを把握していないと出来ないですからね。それに気づくのに4年かかりました。(笑)
(編集部) 最後に家を建てることに迷いがある方に何かひとこと
(建て主) 私の場合、最初は諦めていました。でも、土地との出会いも建築家との出会いも、全ては何かが変わるきっかけなので、とにかく気になる事を相談してみると良いと思います。建て主さんによっては「見に来ても良いよ」という方も居ると思いますので、実際の建築物を見る事も出来ると思います。建てた人の顔も見えるので、安心感があるのもお勧めのポイントです。